今回は、景観を把握する際に用いられるモデルである「景観把握モデル」についてまとめます。
景観とは
モデルに入る前に、「景観」とはどのような意味を持つのか、そしてその歴史を考えていきます。
三好学による植物生態学への導入
日本での景観論の始まりは三好学による植物生態学への導入とされています。
三好学はドイツ語の「Landschaft」や英語の「Landscape」を景観と和訳しました。
三好学による詳細な定義は残されていないようですが、
「その土地を覆う植物によって土地ごとに固定される景色」のことを
”景観”として表したと考えられています。
(参考文献-1)
辻村太郎による地理学への景観の導入
一方、地理学では「視覚によって認められる陸面の形状である」と解釈し導入されました。
これは、景観を把握するものではなく、
あくまでも”対象地を理解するため”の地理学的アプローチの1つとして導入されたものです。
(参考文献-2)
中村良夫による定義
現在の景観論で一般的に用いられる定義は、中村良夫によるものです。
中村良夫は景観を「景観とは人を取り巻く環境のながめである」と定義しました。
またこの後に「しかしそれは単なるながめではなく、環境に対する人間の評価と本質的な関わりがあると考えられるのである」と続いています。
この定義からは、眺める人の立つ位置や人の価値観など、
環境が変われば景観も変わっていくことを表しています。
土木における景観論
ここまで3人の景観の導入や定義をまとめましたが、土木における景観論は「操作的景観論」として始まっています。
つまり、出来るだけ客観的に景観を作り出す操作を捉えようとしたわけです。
景観把握モデルとは
篠原修による景観把握モデルの提唱
この操作的景観論を語る中で重要になるのが、視野に入ってくるものの「関係性」を把握することです。
そこで提唱されているのが、篠原修による「景観把握モデル」です。(参考文献-4より画像を引用)
このモデルでは、次の3つで構成されます。
・視点:環境を眺める主体がいる位置
・視点場:視点にいる主体の周囲の空間や状況
・視対象:視点から眺める環境とその環境の構成要素
うえの3つの構成要素から分かるように
眺めはどんな視対象をどの視点(場)から見るかによって変化します。
例えば、京都の寺院から庭園や山などを眺める風景を想像します。
そこではもちろん、庭や庭の構成要素を眺めているわけですが
上の写真で言えば、建物の柱や床も同時に見えているでしょう。
このように、視点と視対象だけでなく、眺める場所の周囲である視点場も
景観に影響しているのが容易に理解できると思います。
先ほど紹介した3つの構成要素から景観を分析的に捉えることで、
景観を理論的に扱うことができるようになります。
今回は、景観を理論的に扱うための「景観把握モデル」についてまとめました。
別の機会では、景観の種類についてまとめていきたいと思います。
参考文献
- 「三好学を起点とする『景観』および『景観類義語』の概念と展開に関する研究」渡部章郎 日本都市計画学会 都市計画論文集 No.44-1 2009年4月
- 「辻村太郎の『景観』学説」岡田俊裕 地理科学 42巻2号 pp.67-81, 1987年
- 「ゼロから学ぶ土木の基礎 景観とデザイン」佐々木葉著 オーム社 2015年 pp.18
- 「情報メディアを通じた風景体験における景観把握モデル構築に向けた基礎的研究」蝦名涼祐、福井恒明 景観・デザイン研究講演集 No.13 2017年12月